
グールドは32歳を過ぎてから、コンサート活動を止めて、スタジオで録音した演奏をアルバムにすることが、彼の唯一の音楽活動になっていたわけですが、それに際して、彼はレコード会社と話し合って、いつでも自由に録音出来る、彼専用のスタジオを準備してもらっていたらしいです。
その時すでに若くしてスタープレーヤーになっていたとはいえ、それは他の多くの演奏家達には望むべくも、けしてかなえられる環境ではなかったはずです。
録音に専念するようになってからのグールドのアルバムの録音データを注意してみてみると、ある事に気付きます。
それは録音の年月日がばらばらというか、曲によって、楽章ごとに順番に録音する事をしなかったり、短い曲でも何日にもわたって録音していること。それから一つの曲集でもその組曲の作品番号によって、全然違う日に録音されています。
平均律クラヴィーア曲集では、一曲のなかで、プレリュードとフーガを全く別の日に録音している曲も、沢山あります。
平均律クラヴィーア曲集に関しては、他のピアニストの場合、1、2巻あわせても3~5日位で、全曲を録音していることが多い様で、非常に忙しい作業になります。しかしこれは予算やスケジュールの制約から、致し方ないことで、これが慣例的に行われているわけです。
それに対してグールドは、言ってみれば好きな時に、好きなだけ、録音する事ができたわけで、非常に恵まれていたと言う他ありません。

最初は技術者に任せていた作業を、最終的に自分でテープにはさみを入れ、行っていたようで、あるインタビューで、「本当は編集違いで、同じ曲のアルバムを何種類か出したい」なんていう発言もしています。
グールドの場合、ミスを隠す為の編集ではなく、音楽的な方向性を考えての、色々なテイクの結合を行っていたとは思うのですが、緻密で、一本筋のとおった彼の音楽が、沢山の録音テイクや、編集の賜物であったことは間違いないようです。
現代のハイエンドの制作現場においては、クラシック音楽でも、ほぼ当たり前になっている音源の編集ですが、まだそれが頻繁に行われていなかった頃から、より良い作品作りの為に、積極的にグールド氏はそれを行っていたということです。
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